私の行動に対応できず、虚を突かれたかのように気の抜けた声を上げて動きを止める。
そんな彼の横にまた座りなおして、持っていたものを膝の上に置く。
ビニール袋の擦れる音を鳴らしながら、目的のものを取り出して彼に差し出す。
「お誕生日だから、ケーキ買ってきたの。……コンビニのだけど」
「……え、何。何で知ってるのっていうか、それ買いにわざわざ走ったの?」
困惑を隠すこともなく、私の飲み物と自分の飲み物を両手に持ち呆けた表情の彼。
淵くんからすれば、突然走り出したのは奇行に近かったのかもしれない。それでも私は彼に伝えたかったのだ。
「佐伯くんが別れ際に淵くんに言ってたの聞こえたから。『明日から大人の仲間入りだからまた飲みにいこうなー』って。それって誕生日ってことでしょう?」
「そう、だけど」
半ばふざけたように、茶化すようにその後も飲みの話を佐伯くんは話していたのだが、聞こえた言葉を私は捉えてしまったのだ。
だから私は知ったその日のうちに伝えたかった。
「本当はね、今日になったらおめでとうだけ言って帰ろうと思ってたの。だけど、淵くんさっき言ったでしょう?『気持ちなんて伝わりもしない』って」
電話でも伝えられた。明日会おうとも言えた。気持ちがあれば後日だってよかったはずだ。
なのにそうしなかったのは、あの日に向き合うと決めたからだ。一緒の時間を過ごすと決めたからだ。
一つ歳を重ねるその瞬間でさえ一緒にいようとしたかった。
「でもね、私はそんなことないと思うよ。全部は伝わらないだろうけど、少しくらいは伝わる気持ちがきっとあるはずだから」
一番におめでとうと言いたいと。そう、思ってしまったのだ。

