神様には成れない。


うるさい静まれと思っていても高鳴るばかり。

こういうときは五感が敏感になるのだろうか。


「っ!」


するりと指と指が絡まった感覚がはっきりと分かる。ぎゅっと握られたあとも僅かに動く指の感覚すら感じる。

冷たいのか熱いのか。体温が分からないのはきっと私が酷く動揺してしまっているからだろう。

次いで感じたのは甘い花のような香り。

ああ、知っている。これはいつもバイトに行くたびに出会う香りだ。


「え、っ、ちょっ?!」


気がつけば先よりも彼が近くにいて、むしろ、おでことおでこがくっついてしまいそうな近さ。

硬直しそう。いいや、その前に逃げたい。でも逃げられない。彼の手が力強い。甘い香りに酔いさえする。

どうしようもなく、ぎゅっと目を閉じていれば聞こえてきたのは彼の小さく掠れた声だった。


「大丈夫。何もしないよ。瀬戸さん」


するり、と力なく私の手を握っていた彼の手が離れていった。

温もりが冷えていく。