一瞬にして驚くほど冷静さを取り戻した私はグッと手に力を込めて相手の目を見つめ直す。
パキッと缶のヘコむ音が聴こえた。
「……どうしたの?瀬戸さん」
「……」
ただそれだけ。
相手の目に私が映っているはずなのに映っていない気がした。
おおよそ、恋愛と言うものを私はしたことがないけれど、恋愛というものは相手の目を見るだけでどきどきしたり平静でいられなくなったりするものだと思っていた。
悲しいかな、漫画や小説の知識しかないけれど。
それでも、彼の私に対する想いは違う。何かが違うのだ。
と、その時に思い出した。
「淵くん、よく女子高生から連絡先をもらうよね?」
「貰うけど、毎回ゴミ箱に捨てているの瀬戸さんも知ってるでしょ?」
「知ってる」
細身で身長も高く、痛みのない綺麗な黒髪が印象的な彼は顔も整っているためにそれなりにモテるらしいのだ。
連絡先を貰ったと言う話を直接聞かなくても、渡される場面を何度も見たことがある。
だからこそ、私は知っているのだ。
「淵くん、紙をゴミ箱に捨てるときと同じ顔で私を見てる」
ジッと丸い瞳の奥に見える興味無さげなその時の彼を見据えれば、キョトンとした顔が浮かび上がる。次いで
「……ふっ!ははっ!なんっだそれ。どんな顔なわけ」
くくっと笑いを溢してからケラケラと笑い始めた。
発言は確かにおかしかったけれど、私の言葉で笑う彼を見て少しだけホッとした。
ふとした時に砕けたような口調で話す彼。
バイト仲間の関係に収まっていた時の淵くんがそこにいた。

