ジッと数秒、私の瞳を見ていたのだが、耐えかねたように視線を外して手の甲で自身の口元を覆った。
その様子は今までに見た事のないもので困惑し、私はさっき別れを告げられたはずだとまた困惑する。
「えっと……?」
頭上にはてなマークを浮かべて首を傾げれば、彼は自分自身を落ち着かせるように一度深呼吸をした。
「……俺、ずっとずっと瀬戸さんに頼りきりで、肯定してもらう度に安心してた。肯定してもらう事で許された気になってた」
そうして嘲るように吐き出す。
「結局、今まで俺は水無川の事を引きずってたに過ぎなかったんだよ」
「……!」
過去の事として話はしていたけれど、これまでハッキリとは口にしなかった仁菜ちゃんに対する今の彼の気持ち。
「瀬戸さんと話した時とは違う。水無川に直接言ってちゃんと実感できた。間違いなく好きだったって」
「そ、それなら、今なら、仁菜ちゃんと……」
そんな後押しなんてしたく無いくせに口にしてしまうのは、私だってわがままな人間だったからだろう。
「きっと仁菜ちゃんだってそうできるなら、淵くんとやり直したかった筈……だよ」
心と言葉がちぐはぐで、自分自身に傷をつける。痛い、痛いと主張するように目に涙が溜まる。
「……今日はいつになく頑固だね」
そんな私を困ったように笑って彼は言う。
「ううん、俺がそうさせてるんだよね。好きなだけ怒ったって罵倒したって構わないよ」
「そ、そんな事したいわけじゃ無くて……」
「気の済むまでそうしてくれたら、俺はまた、それ以上に瀬戸さんが好きだって言うから」
「!」
「それで受け入れてもらえないなら、今度こそちゃんと諦めるから。……別れる勇気なんて瀬戸さんに持たせたくなかったんだけど」
仁菜ちゃんに言った私の言葉を彼は覚えていたのだ。
消化しきれない気持ちを今度は彼が私の為に消化しようとしてくれているのだ。
それはまるで、私の言葉の答えのようで胸がきゅうっと苦しくなった。
『二人で消化しあえる内は一緒にいたい』
彼もまたそう言っているように聞こえた。

