高校生の頃の淵くんが、歪んで、捻れて、今此処にいる。
高校生の頃に私が出会っていれば、なんて傲慢だけれどそう思ってしまうのは、覚悟していたって未練は消せるわけじゃない。
母の教えを守って後悔をしないようにして来た私が子供なら、後悔をしても尚決めたのが大人の私なのだ。
でも、過ごした優しい時間を思い出すと悲しくなってしまうのは許してほしい。
ポロポロと涙を零す私に、彼は慌てたように手を離しワタワタとポケットを探る。
「待って待って泣かないで。俺ハンカチとか持ち歩いてないんだけど」
非情になり切れないのは彼の悪い所なのかもしれない。
泣くなら泣かせておくくらいしておけばいいのだ。だって、涙は止まりそうにもない。
それでも、彼の為に首を振ってしまうのは私の悪い所だろう。
「……ご、ごめんなさい。大丈夫だから……」
大丈夫なんかじゃないのにそう言えば、また困ったように彼は笑った。
「違うんだよ。あの、あのさ……」
「……?」
彼はモゴモゴと何か言いたげにしながらも視線を私から逸らす。
また日が傾いて、夕日に変わった日差しは彼の頬を赤く染め上げる。
意を決するように此方に向けられた丸い瞳には、私が、私だけが映っていた。
「――瀬戸千花さん。もう一度最初から、俺と付き合ってください」
ああ、きっと、夕日ではなく彼自身の頬が赤かったのだ。

