その涙を拭えないのは私が手を握っているからだろう。
代わりに顔を伏せて、目を伏せて、話の続きを語る。
「あの人が泣くところなんて見たことなかったから、俺どうしていいか分かんなくて、そうだねとしか言えなかった。もっとちゃんと返せてたら良かったのかなって思ったりもした」
「うん」
「そうしてる内に、婆ちゃんは床に伏せて……それでも最期まで一緒にいようってそう思って、ここに通ってた」
「うん」
「そう、思って……そしたら、亡くなる間際婆ちゃんが言ったんだよ。あの人が迎えに来て、くれた、……って」
「……」
相槌にすらならずに、首を縦に振る。
彼はさらに項垂れるような姿勢をとり、私の手を額に寄せた。
それは祈りのようにも見えた。
「人は死んだら神様が迎えに来て天に帰るんだよ。信じなさい。っていつも言ってたのにさ、爺ちゃんが迎えに来たって笑っちゃうよね」
乾いたような笑いを溢して、また一粒雫を零す。
私は、あの告白を受けた夜のことを思い出していた。
ああ、あの言葉はこれだったんだと。
「婆ちゃんは爺ちゃんが迎えにくるなら俺は誰が迎えに来てくれるの?って。寂しくて怖くて」
それは奇しくも仁菜ちゃんと上手くいっていなかった時期の出来事だったのだろう。
「これが好きじゃなかったなら何なんだろうって、どんどん分かんなくなって。だから、俺はニーナと……」
そうして彼の言葉は切れてしまった。

