彼はその時のことを懐かしむように、一音間を開けてまた語る。
「婆ちゃんなんだけど、少女って呼ぶのが似合うような人だったよ。ニコニコ笑って、俺の言葉に一喜一憂して、無邪気で……」
ははっと何処か誤魔化すように小さく笑ってまた思い出を紡ぐ。
「梢さんって呼ぶようになる頃には特にそうだった。俺の顔を見ては、私の好きな人そっくりだわ、早くあの人に会いたい、なんて、爺ちゃんの事を待ってる人だった」
何処かで聞いたことがある。そう言う症状になった人は自分が輝いていた時期に戻るのだと。
「でも、時折思い出したように、あの人は此処に帰ってこない。天に帰ったんだわって泣いて、て……」
と声を震わせ言葉に詰まり、彼はその場にしゃがみ込む。
手で目を隠すように覆い、息を吐き出す。
「あ〜〜……ちょっと待って。この話人にしたことないから、」
彼の後ろを歩いていた私は必然的に彼に追いつき、同じようにしゃがみ込む。
「ーーいいよ、泣いたって」
そうして、両の掌で彼の手を握った。
「……ははっ……何で瀬戸さんも泣きそうな顔してんの」
彼は誤魔化すように私を笑いその言葉を投げたけれど、上手くいかずに一粒の涙を流した。

