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腹を括った状態ではあったと言えど、一抹の不安を覚えながら彼に連れて来られた場所は、彼のマンションから5駅先の山道。
なのだが、今はまだ目的地に向かって歩いている最中だ。
都心から離れているとは言え、ほぼ森のようなこんな場所があったことが驚きだった。
木々が照りつける日光を隠してくれているからか幾分か涼しさはあるものの、駅からそこそこ歩いてきている為、流石に体力が奪われていた。
「あ、あの……どこまで行くの……?」
「えぇっと、もう少しなんだけど……流石に疲れたよねぇ」
ごめんねと言いたげに苦笑いを浮かべているのだが、そんな彼の表情にも疲弊が伺えた。
疲れているのは私だけではないと励ましながら、また黙って彼について行っていると、山道は途絶えた。
「っ!」
瞬間、ブワッと風が吹き上がり、最初に目に入ってきたのは天に向かって咲く黄色い花。
「え、あ、向日葵?」
「そーー、ここ、何でか向日葵だけ自生してるんだよねぇ」
これを見せたかったのだろうかと、向日葵に近づく。
少し、枯れ気味の花も見受けられるけれど、彼の言うように自生しているが故だろう。
都心ではあまり花を見る機会が無い為、少しばかり顔が綻ぶ。
向日葵の咲いている方向にゆっくりと歩を進めていれば、次いで見えたのは
「……家?」
間違いなく小さな平屋の家だった。

