ポツリと滑り落ちた言葉は紛れも無い本心。
しかし、話の流れを考えればおかしな発言である為に彼は戸惑ったように目を瞬かせる。
「私、ずっと仁菜ちゃんが羨ましかった」
羨んで、羨んで、嫉妬していた。
だって、彼の恋愛観の根底には彼女がいた。
「そうやって淵くんを悩ませているのも、振りまわしているのも。……淵くんに好きだって気持ちを持たせたのも」
例えそれが、彼女自身の言葉で歪んだ好きでも。
私は言った。私に向けられた好きは、好きとは言わないと。でも
「きっと、私の淵くんに対する気持ちだって好きとは言わないんだよ」
私だって同じなのだ。
彼はその言葉の真意を測りかねたのか、無意識と言ったように私に手を伸ばそうとした。
しかし、ハッとしたように手を引っ込めて少しだけ微笑んで見せた。
私が言った言葉を思い出したのだろう。
“神様には成れない”と否定した事を。
縋る必要なんてない。盲目にならなくてもいい。私だって人間だ。間違いだって分からないことだってある。
「正しい好きなんて私だって分からないよ」
肯定したことをひっくり返す事もあるのだ。

