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大学の補講。それは単位が足りないから行われる講義という訳でもなく、謂わば夏期講習みたいなもの。

私の場合、午前中だけ出る事にしてあるので午後から彼の家に行く事になっていた。

私の中だけで。そう、私の中だけでなのだ。

しまった。と気付いたのは補講が終わってから。それまでは昨日の事も無理矢理意識から外して勉強に集中していただけに気付くのが遅れてしまった。

補講が終わるのは何時かなどと彼は知らないし、連絡をしようにも仁菜ちゃんに返された携帯はまだ私が持っていたのだ。

これではまた連絡を取る手段が無い。

まだ迎えに行くのが家なだけマシなのだろうが、待たせてしまうのは忍びない。

妙に焦りを感じて私はすぐさま電車に飛び乗った。

ああ、もしかするとあの日の彼もこんな気持ちだったのかもしれないと、一つの懐かしさを抱いて。