それは、決して私が入っていけることのない二人の過去の話。
「……私ね、ナナくんに別れようって言われた時、自業自得だって思った。確かにちゃんと受け入れたんだよ」
彼に背を向けたまま落とす言葉は誰にも拾われず私の足元に転がる。
掬い上げることも出来ずに、私はただ頷く。
「やり直したかったわけじゃないの。でも、今、こんなタイミングでナナくんに偶然会ってあの日に戻れたらって……戻れるような気がして、戻りたくて」
懺悔のようなそれは、今彼の隣にいる私に対する
嫉妬にも思えた。
「だけどナナくんはちゃんと前に進んでいて、だったら、突き放してくれたら、怒ってくれたら私も前に進める…….なんて、私やっぱりあの頃から人任せだったんだよ」
ぎゅうっとお腹の辺りを握りしめて堪えるのは、自分への嫌悪なのか。
それでも、ゆるりと立ち上がって零した言葉を踏みつけ、淵くんに向き直る。
「今から前に進むなんて言えないけど、言えないから」
まだその想いを潰しきれずにいる彼女は、その場で足踏みをして少しずつその想いをすり潰すのだ。
「好きだったよ、ナナくん。誰よりも」
「……うん、ありがとう」
噛みしめるように瞼を伏せた彼は、一体何を思ったのだろう。
立ち去る彼女を見送ったのは私の視線だけだった。

