『お互いがお互いに嫌気がささない内に、価値観の違いが些細なものであるうちに、関係を終わらせてしまうのも一つの手かと』

「……」

『私はもう、兄が苦しむ所を見たくもないので』


まるで深入りしようとしている私が、また彼を変えてしまうと言いたげな物言い。追う事で彼を苦しめると責め立てるような文言。

淵くんが月乃ちゃんを守ったと言っていたように、月乃ちゃんだって淵くんを守りたいのだろう。きっと、この行動すらも“普通”と言う言葉の前では“異質”だと捉えられたりもしたのかもしれない。

と、何となく思ってしまうのは、以前に彼女が話してくれた内容から邪推してしまったからだろう。


「……」


グワン、と頭が揺れるような感覚。そして胸中に渦巻く黒い靄。

そうしてまた、答えずにいれば息を吸い込む音が聞こえた。


『ごめんなさい。私が此処まで口を出す事ではなかったですね』

「うっ、ううん!月乃ちゃんだって淵くんが心配なんだからそんなこと、ないよ……」

『……私の方でもナナに連絡がつくようにしてみますので、これで』


次第に萎んでいった声に対して何か言いたげにしながら、それでも何も言わずに締めくくる。


「あっ!うん!ありがとう!ごめんねっ!」


慌ててお礼を述べたのだがそれはちゃんと届いていたのだろうか。