だがしかし、ホラーと言うものは怖がるものであるはずなのだが
「それが楽しいって事は怖くないの?」
多少なりとも怖がって観るのかとそう聞くけれど
「怖いって言うよりドキドキするじゃん。怖いの来るなって前振りが」
平然とそんな事を返して来る。
「ドキドキ?するの?」
「そりゃもう心臓バクバクして痛いくらい」
何処までが本気かは分からないけれど、彼はくくっと笑いを噛み殺してそう言う。
何処か嘲るように見えたのは気のせいか。
しかし、それでドキドキすると言うのなら彼にだって心動く瞬間があるという事。
機械のように思っていたわけでは無いけれど、昨日も平然としていた様に見えていたので少しばかり驚く。
いや、でも、もしかして
「淵くんが心霊系好きなのってドキドキするから?」
擬似効果、吊り橋効果の様な恋愛の生まれ方もある。そう思い至ったのだが
「どうだろうね」
目を細めて微笑んで見せては、はぐらかし、
「ほらほら、瀬戸さんの怖い思いを忘れる為にも、綺麗なもの見て楽しもう」
急かす様に私の数歩先を歩いて振り返る。
私はと言えば再び先のポスターを思い出してしまい、ぶるると身震いをして、楽しんで忘れる事を優先したいが為に言われるがままに足を動かしたのだった。
けれど、こんな意外な一面を持つ彼の事を私はもっともっと知る必要があるように思えてならなかった。

