冷たいお茶を出す。と言ってくれていたにも関わらず、お母さんは何故か熱いお茶を私の前に差し出した。

いや、熱いお茶と言うと少々語弊がある。お母さんが出してきたのは自らが点てたお茶なのだ。

それが意味する事は、十数年この家で暮らしてきた私にとっては手に取るように分かる。

帰省して早々に、所謂お説教を始めようとしているのだ。

お母さんは私に何か話したい時にこうしてお茶を点てるのだ。茶道の作法としてはどうか何てものは関係ない。私に背筋を伸ばすように強要するにはこれが一番手っ取り早いからだ。

実際にまんまと私は正座して背を伸ばしてしまっている。


「ふふ、こうやって話すのも千花ちゃんが高校生以来なのに、忘れてないわねぇ」


と、ふわふわしたような話声で私に接していたのも束の間、その瞳を鋭く尖らす。


「それで、そんな顔してよく帰ってこれたものね」

「……」


私の母の嫌いなものは“後悔”そして、それに必ず伴う暗い表情だった。

現に私は覚えている限りで、お母さんの暗い顔等見た事はなかった。いつだって微笑み、笑い、悪い事をすれば怒るけれど、一度だって暗い顔も悲しい顔もした事はなかったのだ。