「っ……!」


そうしてようやく自分が何を発したのか気づいて、弾かれたように顔を上げる。

でも、もう遅かった。


「ちが……っ、今のは……!」


彼を傷つけたのだと視覚が訴える。苦しみ続けていた彼がまたそこに居た。

付き合っていた女の子、仁菜ちゃんの言葉を受け止めて押しつぶされていたあの夜に戻ってしまったみたいだ。

いいや、戻ったよりも性質が悪いかもしれない。進んだ彼に対して、また同じような言葉で彼を傷つけたのは私なのだ。

でも、彼を否定したかった訳ではなかった。私の事を好きだと言ってくれた彼を、手を伸ばしてくれた彼を突き放したい訳じゃなかった。

人の感情に間違いなどない。間違い等と言えるものはない。人それぞれ想い方なんて違うのだ。

ならば何故私は彼にこんな事を言ってしまったのだろう。

分からない。考えられない。


「……ごめん。俺がどうかしてた」


答えを出せないままに、彼がそれを飲み込んだ。

謝らせたい訳ではなかったのに、もう何かを言う言葉すら用意できなかった。また、傷つけてしまうのではないかと恐れたのだろうか。

いや、何か違う気がする。それでも、この心に黒く渦巻いたそれは何処かで覚えがあったのは確かだった。