神様には成れない。



前構えもなしにみたポスターの中に混ざる、長い髪の女の人が写るおどろおどろしいそれは、淡い色合いの恋愛のそれとは違う、力強い目を此方に向けた男女が印象的なアクションのそれとも違う、異彩を放っていた。

大声を出して叫ばなかったにしろ、僅かに声を上げた私に驚いた表情が向けられる。


「何?何があった?」


私が先ほどまで向けていた方に彼も向く。

しかし、彼には分からないようで一度首が傾げられた。

それもそうだ。ポスター如きで驚く人などそういない。ましてや大学生になってまで子供のような反応をしているのも稀有だろう。


「う〜〜ん?……あ、もしかして瀬戸さんホラー怖い人だ?」

「っ」


コクコクと素直に頷いてしまう。

むしろ、また不用意に怖いものを目にしたくないが故に彼の服の袖をグイグイと引っ張り先を促してしまう。


「あははっ、ほんっとうに駄目なんだねぇ」


そんな彼は私の様子を見て、笑い声を上げつつも歩き出してはくれる。

宥めて欲しいわけではないけれど、笑われるとは思わなかったので、数度ぱくぱくと空気を吐き出した後に声をだす。


「だっ、だって、こわ、怖いじゃない。なん、何で笑ってるの?」


あの女の人の恨めしい瞳がまだ目の内に残っている。むしろ此方を見ているような被害妄想を起こしてしまった。


「自分より怖がってる人を見ると逆に楽しいって心理働くから。それにほら……」


彼が言い終わらない内にハッと思い出す。


「淵くん心霊系好きって言ってたもんね……?!」


彼の意外な好みはこう言うところで発揮されるらしい。

怖がらないような人は、他人が怖がるのを楽しむ余裕すらあるらしい。