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どれくらいそうしていたのか。数分、数十分、人が殆ど通らないのをいい事にずっと俯いていた。
辛うじて通った数人は私に声を掛ける事もなく知らぬ振り。
此処が地元だったなら他人だろうが何だろうが、親切心から声を掛けられていたのだろうな、なんて甘えた考えがよぎった。
それでも今は、素知らぬふりをされる方が何倍も良かった。
気にかけられた方が痛い。
それなのに、不意に軽快な声が耳に届いた。
「あらら?瀬戸ちゃんじゃん。なーにしてるの?」
「……」
声を掛けられてゆるりと顔を上げる。
覗きこむ様にして私を見下す彼女は、アイスシャーベットを頬張っていた。
「りこ、ちゃん……」
漸く声を出せば笑ってしまう程声は掠れていて、苦しくすらあった。
莉子ちゃんはそれを気にすることもなく、いつもの様に笑ってみせた。
「可愛い顔が台無しだなぁ。何があったか知らないけど、ジュース飲む?」
バイト先で貰ったやつなんだけど。と差し出された缶のオレンジジュースはひんやりとして冷たい。
「ありがとう」と小さな声でお礼を言えば、「ささ、ここよりベンチで座った方が楽だよ」と、またいつもの調子で私を誘導してくれた。

