神様には成れない。



私は自分の手に力が入っていなかった事すら気づいていなかった。

掴んでいた筈の腕はスルリと抜け落ちていて、傍にいた京ちゃんは居なくなっていた。


「いっ……!」


声のした方に視線を向ければ頬を抑える彼が居て、感情を抑え込むことも出来ずに荒い息をした京ちゃんが傍にいた。

遅れて数秒、私は状況を理解する。

京ちゃんが淵くんの頬を叩いたのだ。と。


「その綺麗な顔も台無しね!ざまあみろだわ!」

「きょ、ちゃん……」


血の気が引いた感覚。掠れた声を出すのが精一杯だった。


「な、ナナくん大丈夫……!?何でこんな事するの!?」

「腹立ったから殴っただけよ。悔しかったら殴り返してみれば?女の子だから~~って言うんだったら、そんなの形だけの優しさだわ!そんな優しさない方がマシよ!」


カンッ!とヒールの音が高く重く鳴り響く。

お洒落が好きな彼女は、自分の物を何かと大事に手入れしている事を私はよく知っている。

それでも自分の靴が傷つく事も構わず、明確に怒っている。と言うように行動で示した。

彼もまた、唐突に叩かれた事により声を荒げる。


「っ、だから、訳があって……そっちには関係ない事だろ!?」

「確かに関係ないわ。なら私は顔の良い人間が羨ましくて嫌い!だから殴った」

「なんっ……だそれ、いくらなんでも無茶苦茶すぎない?!」


いつもの柔い声色とは違い尖ったそれは京ちゃんにとって怯む要因でもなく、続け様に行った。


「私にとっても胸糞悪いんだから、千花はもっと嫌だったはずよ」

「っ!」

「そんな事も分からないで、千花と一緒に居るなんて笑わせないで」


今度は彼がその言葉を受けて、明確に表情を変えた。

顔色を変えた。動揺した。傷ついた。気づいた。

果たしてどう表現するのか正解だったのか分からなかったけれど、動かなかった足が漸く動いた。


「きょ、う、ちゃん!!」


制止するように震える声を必死に絞り出して、彼女の腕を掴んだ。