俯き加減の彼は私と京ちゃんに気づいてはいないらしい。
そうして、それを良いことに私は留まる。
用事とはこの事だったのだろうか、と、ぐるぐる考えて動けなくなる。
「ね、ねぇ、あの子誰?アイツの友達?」
「……知らない」
聞かれても私は彼の友人関係を全て把握しているわけでもないので、明確な答えなど持ってはいない。
離せない目が観察を続ける。
「水無川。じゃなくてニーナって呼んでよ」
ニコニコと笑いながらも唇を尖らし、手を彼に伸ばす。が、自然な動作で彼が一歩引いて触れられることすら拒否しているように見えた。
ニーナ、日本人の名前よりも外国名にも聞こえるそれは、何処か聞いた覚えのある音。
「ほんと、付きまとうのやめてって何度も……」
「付きまとってないよ、だってニーナの家ここから遠いんだよ?偶然だよ~~」
そうだ、女の子の声でその音を聞いた。
ニーナ。仁菜。月乃ちゃんが口にした淵くんが付き合っていた女の子の名前。
繋がった瞬間、頭が冴えた。しかし、それよりも早く動いたのは京ちゃんの方だった。

