まだ彼が私の名を呼ぶ声が耳の中に残っている。


「うん?」


何のことだと言いたげな声が聞こえてくる。それもそうだろう。

事の顛末を最初から話そう。


「昨日、淵くんは…….」


と、掻い摘んで彼のマンションまで来た経緯を話したのだが、彼はとことん覚えていないようで


「だから、起きたらめちゃくちゃ気持ち悪かったし酒臭かったのか。佐伯に怪文送ってた理由も納得した」


とシンプルに頷いていた。

そうして


「ごめんね、迷惑掛けたみたいで。瀬戸さん疲れてたでしょ?」


と、いつも通りの様子で私を気遣う素振りを見せてくれる。

頭を伏せながらずっと喋ると言う奇妙な事をしていたのだが、そうだ、彼はこんなのんびりとした人なのだ。と忘れていたかのように思い出した。

それでやっとホッと息を吐けたのだが、私が話したのはマンションに来てまでで、来てからは話していない。

それこそ、昨日の佐伯くんの言葉じゃないが忘れようとすらしたのだが、彼がそれで納得する筈なかった。


「それで?瀬戸さんはどうしてそんなに俺に対して過剰な反応するの?」


いいや、納得させれなかったのは全て私のこの反応の所為だったのだ。


「う、ううん。それはもういいよ」

「良くないよ。覚えてない俺が言う事じゃないけど、瀬戸さんに嫌な思いさせたなら謝りたいし、もし、その……恥ずかしい思いさせたなら……」

「うぅ……」

「えっ!?やっぱり俺?!」

「だ、だから違う!違うの!」


その割には淵くんの言葉に該当する光景をフラッシュバックさせては、唸り声を上げてしまうのだから情けない。

必死な否定が最早怪しくて虚しい。しかしながら誓って疚しいことなどないのだ。

言ってしまえば戯れた行為にしか過ぎない。それくらいわかってる。分かってるのだ。