「でもびっくりしたよ。起きたら瀬戸さんがいるんだもん」


口振りから察するに、どうやら昨日の事を覚えていないらしい。

酔って記憶がないと言う人が一定数いるのも聞いたことがあるので、そうだとしてもおかしくはないが。


「あれ?瀬戸さんおデコ、赤くない?」


隅で座る私に近寄り片膝をベッドに乗せて這うように、近づく。

ギッ、と軋むベッドが昨日の夜を彷彿とさせ、此方に伸ばされる手が熱を呼び覚ます。

額に触れた指先はヒヤリとしていて、私が熱いことを簡単に自覚させた。


「っ〜〜!?」


彼は元々何の気も無しに触れるような人だった。なのに今日の私はそれだけで酷く動揺して、最早逃げ場のないベッドの隅から更に下がろうとして思い切り後頭部を打ち付ける。


「えっ!?何してんの?!凄い音したけど」

「ご、ごめ、なさい……!だいじょぶ、大丈夫だから……」


痛みを堪えながらも、平常心を保とうと必死に大丈夫だと繰り返す。

繰り返す度に少しも大丈夫ではないことに気づいてしまい、隠れるように掛け布団を口元まで引っ張り上げた。


「……なに、その反応。可能性を考えなかった訳じゃないけどもしかして俺……」


覚えていないのならそれはそれで良かった。覚えていたのならどうしていたかは分からないけれど、どちらにしても私に危害があった訳ではなかったのだから、彼がそんなにショックを受けたような顔をしなくても良いのだ。

それに、最終的に受け入れようとしたのは他でもない私だったのだから。


「ちがっ!何もない!何もないけど!ふっ、淵くんも男の子だもんね!?」

「えぇっ!?それって何もなかった訳じゃないんじゃないの!?」

「う、ぁ……!そうじゃなくて……!あの!」


誤解に次ぐ誤解を招いてしまい、隠すように今度は三角座りした膝に顔を埋めた。

昨日もそうだったけど、顔周りを覆うとたしょうなりとも平常心を取り戻す力が戻るらしい。


「せ、瀬戸さん?」

「……昨日は千花って呼んだ」


モゴモゴと篭った声ながらも漸くまともな言葉を紡ぎ出せた。