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張った気が抜けた。と言うにはあまりにも単純すぎるが、結果として私はのこのこと彼の部屋の前まで付いて来ていた。
……彼が手を繋ぎ直して離してはくれなかったのも理由の一つだけれど。
「う……っ」
彼は存外力が強い。だからと言って痛みがあるわけでもないのだが、逃れられない力加減で私を繋ぎ止めるのだ。
静かに扉が開く音が鳴り、足音二つ、暗闇に飲まれる。
「だだいま、っと」
彼はいつもそうしているような自然な動作で部屋に入って、電気を付ける。
「わっ、わわっ!?」
手を引かれるまま、転ばない様に私も急いで靴を脱いでバタバタと音を立てつつも部屋に入る。
一体どこまで付いていけばいいのか。いいや、もう彼を送り届けると言う目的を達成しているのだから、佐伯くんと約束したように帰って今日の事を忘れるだけなのだ。
「あ、あの、ふち、淵くん……!」
閉塞感のある部屋、夜。
それはどうしてこうも不安にさせるのか。そしてどうしてこうも妙な感情の変化を生み出してしまうのか。
上手く頭が回らなくて呂律すら回らないのは私の方だった。

