有無をも言わせないような雰囲気で、私の前腕を軽く掴んでそのまま滑らせるように手首を持って、鍵を持った私の手を持ち上げる。
所定の位置にその鍵をかざせばピピッと電子音が鳴る。
「暗証番号は……」
「ふ、淵くん、あの…….」
私の言わんとする事が分かるのか、覗き込むように目を合わせれば、緩く微笑まれる。
「ここまで来たんなら部屋まで送ってよ。……駄目?」
「えっ、え、と」
ピーッと電子音が鳴る。私が戸惑っている間にも操作を止めなかったようだ。
「あれ?」
扉のセキュリティーが解除された。そう思ったのだが、画面にはエラーの文字が表れている。
「う~~ん、おかしいなぁ。4……」
「淵くんそれ1だよ」
彼が声に出して押したボタンは違う物で、思わず訂正するように手を出してしまう。
先のスマホ操作の時も誤字ばかりだったが、もしかすると同じように誤入力をした結果、エラーを弾きだしたのかもしれない。
「結構酔ってる?」
「あははっ、多分ね。視界がぶれてるみたいだから」
「……」
何故だか他人事のようにケラケラと笑って、また入力を続けようとする。
「えっと、3」
「それは8……――」
しかし、このままではマンション内に入るのにすら、時間が掛かり過ぎてしまうのが容易に想像出来るので、結局彼の代わりに私がセキュリティーを解除するに至ったのだった。

