佐伯くんが困り果てている様子を見て、内心で一筋縄ではいかないのではないかと危惧していたのだがこのまま行けば何事もなさそうだ。
と、考えていたのだが……
「……あれ?」
そう言えば、と思いだした事がある。
私が彼の家に行ったのは数回。その数回とも部屋の鍵を開けたのは彼だ。
部屋に入るのにエントランスを開けて、私が入るのに部屋からエントランスを開けて貰って。
そのエントランスを開けるには確かこのカードキーを使っていなかった気がするのだ。
記憶が確かなら鍵を入れ替えていたのだ。
「ねぇ、淵くん。エントランスの鍵ってこの鍵とは違う?……んじゃないの?」
「大丈夫大丈夫。ちゃんと持ってるから、ほら」
「あ、そっか。無くしたのって部屋の鍵……」
二種類の内、一つ無くしたから結局家に帰れないのと同じだ。と解釈したのだが、彼が財布から取り出して渡してきたのは二つのカードキー。
「……こ、こっちでエントランス開くんだね~~」
とりあえず二つ受け取ってみたものの、あれだけ頑なに無くしたと言っていたのに、堂々と種類の違う二つの鍵を渡してくるものだから、突っ込んで話していいのか分からなくなり、気づかない振りをしてしまう。
いや、でも佐伯くんの推測通り嘘を吐いているのだから……とグルグル考える。
「――……ほんっと、瀬戸さんって怒らないよねぇ」
ふいに、のんびりとした声を上げながら笑みすらを消して困った顔を浮かべる彼。

