別に中学生の思春期のように、間接キス如きでドギマギしろなんて事は思わない。
けれど、私にとってそれ如きでドギマギしてしまうのは紛れも無い事実。
同性とは違う、淵くんは間違いなく異性だから、余計に気にしてしまうのだ。
「?要らない?」
それを理解していない淵くんは、他人にあまり興味がなく、また、異性を異性として扱ってはいないのだろうと実感する。
私の考えに想い及ばない彼はただ首を傾げて問いかける。
が、しかし本当に分からないわけではないらしい。
「……あ、ごめん。軽率だったね。新しいの買ってくるよ」
ばつの悪そうな表情を見せ、手を引っ込める。いつもならまた、ここで軽く流すであろう彼がこうもしおらしいのは、一応ながらこの関係を配慮しているのだろう。
私の付き合う前提が恋をする事と言うことに。
恋人ごっこ。恋人のような関係に一番近いけれど、何も本当に恋人のように振る舞うわけではない。
ただ意識を持つだけに過ぎない。
互いを縛る確かな制約があると言うわけでもなく、友達以上であり恋人未満にしかなり得ないのだ。
異性としてそこは踏み込んではいけない場所だと暗黙の了解があるのかもしれない。
「……」
お願いしますという事も要らないという事も言えないままに、ただ新しく飲み物を買いに行く彼の背を見ているしか出来なかった。

