「なっ?こんな調子だろ?」
「う、う~~ん……」
このままじゃ話は平行線だ。酔いが醒めるまで待つか本当に放っておくかになってしまうのだが、流石にそれはしたくない。
何か打開策でもないかと頭を回転させていると再び佐伯くんが手招きをした。
「千花ちゃん、千花ちゃん」
「はい?」
呼ばれるままに近づくと、どうやらまた彼の前でするには憚られる話らしく、声量すら落とす。
息を交えた声を聞き落さないように耳を傾けた。
「多分、あれは俺に家来られんの嫌がってんだと思うんだけど千花ちゃんは知ってんだよな?」
「うん?うん……」
腑に落ちない点はあった。鍵を私から受け取って彼を無理矢理連れ帰る事も出来るはずなのに何故しないのかと。
しかしながら、今更に気づくのは単純に佐伯くんは彼の住まいを知らないと言う事。
「もうこうなった以上仕方ないからさぁ、部屋にぶち込んだら速攻帰って今日の事は忘れてやってくんね?」
「め、滅茶苦茶なこと言うね」
「だぁってさ、あれは欲求不満っぽいとこあるから酒飲んだら理性なんか紙みたいにペラッペラになるぜ?」
「よっ……?!」
不意打ちにまた変な事を言いだすので、グッと喉から変な音が出る。
「ほら、間違って酒ぶっかけたーって話、あれ俺がおかしいのかなって思ってたけど、今日は全くの普通だったから、多分相手が居る時と居ない時じゃって……おっと、悪い悪い」
「う、う……ううん」
佐伯くんは私の反応を見て慌てて訂正をした。
必死で首を振って邪念すらも払ってしまおうと試みるのだが、躰の熱が上がるのを感じる。
関係性が違うと、言葉ひとつとっても変化が生じてしまうのだ。

