可笑しな話だが、これでこそ彼だ。なんて思ってしまう。

平然とした態度でいつだって私を振り回すのだ。


「顔真っ赤。それでこそ、瀬戸さんだよねぇ」


彼もまた同じように思っていたのか、そんな事を呟く。


「っ、っ~~!」


それでも、してやったり顔なのが何とも悔しい。

だからと言って、彼の申し出を断る程の度胸なんてものはない。


「ごっ、ご、五秒だけなら……う!?わぷっ?!」


言い切る前に力強く腕を引かれて肩口に軽くぶつかる。

驚いている間にもきゅうっと再び抱きしめられる。

圧迫される事によって感じる自分自身の鼓動と彼の鼓動。

それに混ざり合うのは彼の笑い声。


「一杯一杯なくせにお願い聞いてくれるなんて、ほんっと瀬戸さんは真面目だね」

「だっ、だって……!」

「俺はそんな瀬戸さんが好きだよ」

「う、え?えっ」


耳元で囁かれる告白は私の心拍数を更に上げた。


「わっ、わた……」

「好きだよ、瀬戸さん」


せめて私もと返したかったのに遮るように再び口に出され、無理やり押し込められた言葉のせいで喉からぐっと変な音がでる。

かくして私は降伏せざるを得なかったのだった。


「……?」


それでも、全身が脈打つほどの鼓動に混じってほんの少しだけドクドクと早く鳴る鼓動を感じたのは気のせいだったのだろうか。