神様には成れない。



月乃ちゃんがここに来るのは初めてである筈だが、何となく人が多く流れる方に沿っているのか、追いつくまでに行こうとした方向に確実に近づいていた。


「あそこで短冊を書くんですね」


イベント用テントが張られた中には、机が並べられて短冊が自由に書けるようになっている。

それを持って笹に短冊を飾る、それだけのお祭りなのだが、やはり心躍るものがある。


「差し当たって、千花さんと兄が上手くいくように願っておきましょうか」


至って真面目な表情でペンを持ち短冊を手に取る。


「えっ、え?」

「冗談ですよ。でも、恥ずかしいから見ないでくださいね?」


思わず戸惑う私に不敵に笑って見せて、私から離れた場所に移動して徐に書き始める。

やはり、独特のテンポで話をする子だ。


「月乃ちゃんっていつもあんな感じなの?」

「う~~ん?大体あんな感じ。いつも以上に機嫌はいいみたいだけど」


彼もまた短冊を選びとって、ペンを手にする。

私も同じようにペンを手に取った。


「月乃は笑ったり殆どしないんだよねぇ。昔はそうじゃなかったんだけど。でも瀬戸さんと居るのは好きなんじゃないかな。ちょっと浮かれてる気がする」


“気がするだけだけど”と言って、私から少し離れた所へ移動して願い事を書き始める。


「……そうなのかな」


ポツリと呟いてから私は赤い色の短冊を選びとって、彼らと同じように書き始めたのだった。