困惑する私を傍目に、淡々とした口調で彼女は彼に応答する。
「バイト終わった?」
『うん、終わったけど』
「じゃあ、この後の時間は彼女と使ってね」
「うん??」
彼が返答する前に私が声を出してしまう。
『あれ?瀬戸さんもそこにいるの?』
こんな声すらも拾ってしまうらしく、彼が私の存在に気づく。
「まだ大学にいるから。っと、そんな事はどうでもよくて、兄、七夕祭りの場所わかる?」
『七夕?ん〜〜?あ、今日そうだったっけ。うん、わかるわかる』
「じゃあそこに来て。デートでもしてきなよ」
「えっ、ちょっと待って……」
半ば強制のような物言いに意を唱えるも、月乃ちゃんは首を振る。
「いいんです、いいんです。折角なんだから勿体無いじゃないですか」
「でも……」
「私も1人で帰れますし、気にせず。兄だって家に帰ってもシャルロットと遊んでるだけでしょうし」
引き止める私を払いたいように、言い放ち続ける。
どんどん遠ざかろうとする彼女を引き止める術は、と考える。私が気にしているのはそんな事ではないのだ。
『……まあそうだけど月乃、あんまりそう強引に話進めるのは良くないと思うよ。瀬戸さんだって困ってない?』
勿論彼が言うことも彼自身が困っていないのであれば私は問題なんてないのだ。
そうではないと本能的に言葉を発する。
「困ってない!むしろ嬉しいんだけど、えっと、そうじゃなくて、待ち合わせは一時間後にしてくれるかな!?よろしく!」
そうして私は無理やり通話終了ボタンを押したのだった。

