神様には成れない。



一瞬だけ、しん、と静寂が辺りを包む。

次の音は静かに彼女が茶碗を手にする衣擦れの音のみ。


「あ、どうかな?お茶の味は」

「……苦いです」

「ふふっ、そうだよね」


私は今だって同じような感想を持つ。しかし、ことこの事に関してはその苦味が好きだ。


「でも、さっきの方は千花さんの点てるお茶を飲みたかったと言っていました。だから、きっとこのお茶は美味しいのでしょうね」


淡々と客観的な感想に持っていく彼女はあくまで自分の主張はしない。

そうして、もう一口飲んで言う。


「――それでも、人の手に掛かるものは優しく感じて好きです」


そう優しく微笑みを浮かべて、ごちそうさまと、茶碗を突きだしてお礼を述べる。

何処となく寂しそうに見えるのは気のせいだろうか。

ジッと観察するように彼女を見ていれば、パッと切り替える様に髪を払って問いかけてくる。


「それより、七夕祭りってなんですか?」

「今日は七夕だから笹に短冊吊るしてお願い事するお祭りがこの近くであるの」

「へぇぇ、そんなお祭りあるんですね」


知らなかった、と声を上げて、徐に此方に目を向ける。

ジッと、観察するように私を見る目は妙な力強さがあった。


「?」


なんだろうか。と思いつつも私もその瞳を見返して、黒い目に見えがちの彼よりも目に見えて色素が薄い。なんて今更ながら知る。

そうしてその視線は揺らいで首が傾げられる。


「……もしかして、浴衣なのってお祭りに行くためだったんじゃないんですか?」