「大丈夫だよ。気にしないで」
そう言えば、ホッとしたような表情を見せて彼女は部屋に足を踏み入れる。
多分、ここに置いていた荷物を取りに来たのだろう。
彼女は不意に月乃ちゃんの方をじっと見て、私に問いかけてくる。
「その子は……今日の見学の子?」
「うん。簡単にお茶出してたの」
「こんにちは、お邪魔してます」
月乃ちゃんは手にしていた茶碗を置き、微笑みを浮かべて軽く会釈をする。
「こんにちは。っていうか、すっごく可愛い子だね~~!?」
「……いえ、そんな事は、ないです」
興奮気味に声を上げる彼女とは対照的に、月乃ちゃんは顔を強張らせて否定をする。
居たたまれないかのように自らの髪を撫でて、少し俯いた。
「私も時間があれば千花ちゃんの点てるお茶飲みたかったんだけど、待ち合わせに遅れちゃうから行くね」
そんな月乃ちゃんを気にするわけでもなく、彼女は部屋の隅に置いていた荷物を手にしてそそくさと入口に舞い戻っていく。
「うん、気をつけてね」
「千花ちゃんは今日の七夕祭り行かないの?」
「私は……行かない。かな」
「そっか~~じゃあ、また大学でね」
ひらひらと手を振って見送れば、彼女もまた私に手を振って帰って行ったのだった。

