一歩私に歩み寄り、綺麗な手を私に差し出す。
「じゃあ改めて、よろしくお願いします。千花さん」
「お、お願いします……?」
情けないけれど、おずおずと手を差し出せば柔らかく手を握られる。
反射的に手を握り返せば彼女は今一度ニコリと私に笑いかけると、ゆっくりと表情を無に戻していく。
「千花さんは察しの良い人だと思うので、もう気づいているかもしれないですけど、私オープンキャンバスに興味はないんです。それは、ごめんなさい」
「ううん。いいんだよ」
頭を下げて律儀に謝ったかと思えばバッと顔をあげる。
「でも、適当に家から近い所に進学しようと思ってたんですけど、私も高校三年生なのでやっぱりきちんと進路を考えようと思えました。それは、ありがとうございました」
「うん。それならよかった」
興味があるにしろ、ないにしろ、今日の事が彼女にとって意味を成すものであったのならそれに越した事はない。
意味を作るのは自分自身。
「じゃあ、帰りましょうか?帰りながらまた色んな話を聞かせてください」
「あ、まって。その前に一つだけ私の好きな物教えるね」
そして、私だって月乃ちゃんに意味を持たせる事が出来るのだ。

