数度深呼吸を繰り返せば、漸く落ち着きを取り戻して姿勢を正した。


「何でって……?だって、30分も前に連絡してくれてたのに、待たせちゃってるじゃない」


そう言えば淵くんも私を待たせたと言って走って来てくれたな。なんて事を思いだす。

人を待たせておいて悠長にするなんて、自分自身が気持ちが悪くて、申し訳なくて急いだにすぎないのだが。


「……そうですか」


無表情にコクリと頷いて彼女は立ち上がる。


「待たせておけばいいんですよ。だって今日、貴女が忙しい事を私は知っているんですから」


と、自分の事を他人のように冷たく言って後ろで一つに束ねた髪を払った。

次いで、月乃ちゃんは私に白くすらっとした手を伸ばす。


「でも、ありがとうございます。兄の妹ってだけにすぎないのに」


そうして、私の髪の右側につけていた髪飾りに触れた。

走って乱れてしまったそれを直してくれたのか、髪と共にそれが動く感触が分かる。


「似合ってます、浴衣。とても可愛いです」


次いで手を離して、少しだけ口元を緩める。

笑ってくれたのだろうか。そう思えばきゅっと心臓が掴まれたような気がした。


「うっ……」

「?どうかしました?」

「う、ううん。何でもない」


やはり異性だろうと兄妹だからだろうか、ふとした時の表情が似ているだけに妙に照れくさくなってしまうのだ。

それでなくとも、彼女も同じように顔が整っているのだ。ドギマギしてしまう。