神様には成れない。



「じゃあ、瀬戸さんは俺の一番好きな人になってくれるの?」


出来るならそうしてよ。と言い出しそうな何処か責めたような口調。

何も感じないという事が枷になって、順序も何も無くなってしまったのだ。

握った手を見つめる。まだ震える私の手と、握り返されてる彼の手がそこにある。

手が物語るのは心の内。


「それは淵くん次第で私も不確かな事だから分からない。でもこうやって手を触れても何も思わないなんてやっぱり寂しいよ」

「……と、言われても俺にとって握手するのとそう変わらないんだけど」


困ったように事実を述べ、やはり何の感情も持たないと言うように繋いだ私の手を指でなぞり遊び始める。


「っ~~」


正直に言えばくすぐったくて恥ずかしくて堪らないのだが、なるべく気にしないように首を振り雑念を飛ばす。

そうしなければ話は進まない。


「私は今手を繋いで何かしらの感情を持ってほしいなんてことは思ってないよ。ただ……そう。淵くんが自分自身を苦しめてほしくないだけ」


真っ直ぐに見据えると、彼もまた此方を真っ直ぐに見つめ返していた。だけどその瞳は少しだけ揺らぎ、私には分からない感情を宿す。

果たして嘲笑か慈愛か。感情の名を見つけられないままに目は細められ、彼は僅かに微笑みを浮かべた。


「――やっぱり瀬戸さんは優しくて、純粋な人だね。他人の事をそうやって言えるなんて」


私は首を横に振り、否定する。


「違うよ。自分勝手に淵くんが望まない事を無理にさせようとしてるだけだもの。もしかすると惜しいから引き止めてるだけなのかもしれないでしょう?」


淡い感情すら無くてもいい。私だって淵くんに触れて鼓動は高鳴るとは言え、そこにはまだしっかりと恋愛としての感情は生まれていないのだ。

だからこそ、互いに手をとって確かな感情を二人で探したい。


「だから、今はまだ何も思えなくても、せめて淵くんも私を引き止めるために手を繋いで欲しい。そこから向き合って、私は淵くんと恋をしたい」


また目を丸くした彼は、思考が何処かに行ってしまったかのようにピタリとそのまま動かなくなり、


「……淵くん?」

「っ――……!」


次いで一瞬でその顔に大きな花を咲かせた。