「凄く懐いてるね」
「懐いてるって言うか、遊んでほしいんじゃないかな。この家独り暮らしにしては広いけど、行き来させてるの二部屋だけだから猫にとっては狭いだろうし、遊べなくて可哀想だとは思うよ」
「可哀想……」
なんて言葉を使う彼は、一瞬下を向いて憐みにも似た瞳をシャルロットに向けた。
「それでも可愛がってくれてるの分かってるから寄っていくんじゃないかな」
ふわふわと長い毛には艶があって、動物特有の臭いよりもシャンプーのような良い臭いがしたのだ。可愛がっていなければ細かい手入れをする事は難しいだろう。
「う~~ん。そうだといいけど。やっぱり実家の方がもっと自由に出来るし、妹の方がちゃんと世話をしてあげれるからコイツにとっても良かったのかなとか思うけどね」
彼は自分のしている事に自信がないのかそんな事をぼやく。
それだけ動物の事を考えているのに。なんてことを勝手に思うけれど、彼は彼なりに思う所があるらしい。
「俺の慰めで飼われてる猫だからもちろん大事なんだけどねぇ」
「慰め……?」
サラリと口にした事は彼自身の事で、勿論気に止める様子もない。
あまり良い意味合いを連想できないだけに引っかかる。
「それって……」
と続きを問いかけかけて慌てて口を閉ざす。踏み込み過ぎてはいけない事だってきっとある筈なのだ。
しかし、隣の部屋からも廊下からも物音ひとつ聞こえないこのマンションは、こう言った時にも十分にその効果を発揮して、確かに私の声として部屋に落とされた。
「梢さんが、居なくなった時に飼いはじめた子だから」

