彼は、「いや……」と視線を上に向けた後に首を振る。
「僕言葉遣い汚いから普段から慣れとかないと、いざという時に困る。です」
とまた妙な言葉遣いをする。
一生懸命な様子を見ていると何となく微笑ましいような気持ちになる。
「偉いね」
「いや、偉いとかじゃなくて、面接の時に迫真の顔で『お客様の中には言葉遣い一つで絡んでくる人もいるから難しくても努力はしてくれ。ひいてはそれが君の為にもなる』って言われてるんす……」
面接の時を思い出しているのか、渋い顔を作り妙な言葉遣いながらも、必死に私に対しても敬語を使おうと努力する理由を話す。
これもまた店長の慎重な性格が出ている瞬間だろう。妙なトラブルは事前に避けれるようにと。
そんな店長の性格を五月蠅がって嫌っている人も店員の中には居るけれど、私は嫌いには慣れないし、何なら一周廻って好きだ。
「そう言えば私の時は『とにかく女の子は笑顔を忘れないでくれ』って念を押されたなぁ」
「あっ僕、瀬戸さんの笑顔一番好きっす」
屈託もなく笑う姿にまた微笑ましくなる。年下だからだろうか、弟がいればこんな感じかなあなどと想像してしまう。
「ふふっ、ありがとう。あ、もう上がる時間……」
終わるように促した所に来客を知らせる音が鳴ったのだ。

