神様には成れない。



出してあげれなかった私の気持ちが漸く彼に手を伸ばす。

そうすると、また胸が痛む。

痛んで痛んで吐き出す事を止める事なんてできない。


「そうやって優しい淵くんが好き」


誰にも頑なに口に出せなかったのは、口から気持ちが出てしまえば大きくなってまた私の心に還ってくる予感がしたからだ。


「臆病な淵くんだって好き」


彼を困らせてしまうと、口を閉ざそうとした私だって臆病だった。

それでも、『何も感じない』と言う彼が、付き合っていた子を想う彼が手を差し出してくれたのだ。


「手を引いてくれる淵くんが好き」


どちらの手が冷たいのか温かいのか分からない。混ざり合って互いに体温を奪い合っているような気さえする。

そうしていければいい。


「誰のものでもない淵くんが好き」


次第に前を向ける事が出来ていた視線は、漸く彼の瞳を捕える。


「え……?」


その整った顔立ちは、紅い。