言えないと言った私をまるで否定するように口にされてしまうと私の立場がない。
そう思うのに嬉しいと感じる私もいて、やはり彼の気持ちが欲しいと思い知らされる。
「……嬉しかったんだよね。単純だけど、瀬戸さんが付き合ってた子への事肯定してくれて」
彼は至って普段通りで、それでも口角を上げて嬉しそうに言う。
「今でもこれでいいのかは自信ないけど、もう馬鹿みたいに分からないとか言うの止めようと思って」
顔を上げて前を向いたように、一歩踏み出す言葉を私にくれる。
「我儘だけど、今は瀬戸さんに好きになってもらいたいし、何処にもいかないでほしい」
それを証明するかのように、今の自らの想いを口にして、曖昧な関係に輪郭を作り上げる。
それは私が望んでいた事で、踏み出すには怖かった場所が照らされた。
見えなかった彼の事が見えた気がした。遠ざかっていく彼に手が届きそうだ。
「それだけ瀬戸さんに分かっててほしくて。――ってことで、帰ろうか」
いつもの軽い調子にパッと切り替えて、変わらず私の手を引き歩きはじめる。
つられるように私も足を踏み出して、着いていく。
「っ、っ!」
手が届く。届いているのだ。
恥ずかしいとか、そんなのは只の言い訳だ。
「っ淵、くん……っ!」
「え?う、わっ!?」
引き止めなければ。
そんな気持ちが私を急かすも、慌てて踏み出した足は絡まって簡単にバランスを崩してしまった。

