「はい。とは?」
手が差し出されているのだが、意味が分からなく問いかける。
その流れで目が合うのだが、気恥ずかしくて視線が揺らぎ、そうしてまた、彼から逃げるように手を見つめた。
「転んだら危ないし、手貸すよ」
平然と言ってのけてしまうこれは、彼の優しさなのに、手を繋ぐ事になるのを意識せざるを得ない。
また思いだしてしまうのは、あの夜の事。
彼の体温、息遣い、弱さ、苦しさ。引き金のように全部が頭の中を駆け巡り始める。
こうなるから会う事に勇気が要ったのだと気づかされる。
でも、ここで拒むのもおかしいかもしれないと、手を持ち上げる。
頭が上手く回らないから正常な判断が出来なかった。
と言うのは言い訳だ。
「――ありがとう。そうさせてもらうね」
本当は、彼に触れたいだけだ。
指先に触れただけで高鳴った胸は、彼が私の手をしっかり握った事によってより一層強く叩かれる。
平常心を装うなんて難しい。

