私の知っている淵くんは、ほんの一部、バイトでの事だけ。
こんな一面があるなんて知らなくて、その事実を今更ながらに痛感した。
しかし、ここからどう返せばいいのだろうか。私には考えることのなかった領域でまだまだ先の話で、漠然としたもの。
むしろ、一生関わることのない話でもおかしくないのだ。
「――……」
ただただ、次なる行動を考えるに至る。
「ふっ……あはは!」
と、不意に淵くんが笑い声をあげた。何の前触れもなく唐突に。
一体何だと言うのだろうか。
「?」
理由も分からずに顔を上げて、彼の方を向く。
「ほんっと、瀬戸さんって根っこから真面目だよねぇ」
「なっ……?!」
そんな、誉めているのかバカにしているのか捕らえ辛い言葉を向けられる。
とても心外で、何度か口をパクパクさせてから漸く此方も反撃した。
「そんなに笑わなくてもいいと思うんだけど!私は私なりに考えて…!」
「うんうん。分かってるって。こんな話に真面目に考えてくれるの瀬戸さんくらいだからありがたいなぁって思ったんだよ」
「……そもそも、淵くんが返しに困る話をしだすから」
小さく異を唱えてみるけれど彼は嬉しそうに笑うばかり。
バイトの時もそれはもう素晴らしい笑顔で、完璧に接客しているのだが、それとは違う気がしてしまうのは私の自惚れだろうか。

