言葉にならない音ばかり漏らしながら身動ぎをしてみるのだが、彼は力を緩めようとはしない。


「ま、まっ、これ、は、恥ずかしい……と言うか」


声を発する度に体温が上昇して行くようで落ち着かない。

手を繋ぐことすら心臓が高鳴るのに、抱き締められるだなんて心臓が破裂しそうだった。

いや、でも


「俺の事抱き締めて押し倒して平然としてた癖によく言うよ」


そう、思い返せば言い訳はたくさん出来るけれど間違いなく先までそんな状態だったのだ。


「そんなつもりじゃ……!」


反論したところでクスクスと笑いが返るのみで、私と反応がまるで正反対だった。


「うんうん。そうだよね、分かってる分かってる。でもなんとなーく、癪だから仕返しだよ」


癪だからと言いながら、彼自身だって今まさに平然としているのだ。私を責められた事ではない。


「じ、自分勝手……!!」

「そうそう、俺は瀬戸さんなんかより、よっぽど自分勝手なんだよ」


少しだけ抱きしめる力を強くして、息を吐く。

すぐ側に彼がいて、囁くように言う。


「……だから、今だけはこうする事を許してね」

「うっ、っ~~!」


ピリピリと彼の声に耳が痺れ、言葉を通して脳に駆け上がる。

私は遂に容量オーバーに達し、為すがままになってしまったのだった。

けれど、許しを請う彼の中で少しでも変化があったのならばそれだけでも良いと、そう思った。