彼の言葉は耳に届いた。自分が泣いているのも分かっていた。
なのに、次の行動に移すまでに数度、涙が頬を伝って落ちて行った。
緩慢な動作で、淵くんの手首を抑えたままになっていた左手を自分の目元に持って行く。
肌が熱い。涙が温い。
まだ、雫が溢れる。
「何で涙がでて……」
「えっ、と、また俺何か変な事言った？かな？」
互いに状況を掴めずに動揺する。
話している間に感情が高ぶったのだろうか。
彼に好かれていた彼女が羨ましい。自分を信じれない彼への悔しさ。信じてあげて欲しかったと言う憤り。
色んな感情が入り混じっていて分からない。
ただ一つ、悲しくて泣いているわけではないことだけは確かだった。
「っ、淵くんは何も言ってないよ。変なんかじゃない……！」
ゴシゴシと目を擦って否定をする。
涙が止まっているのか止まっていないのか確認する余裕もない。
訳も分からず泣いてしまっている自分が恥ずかしくて、強く目元を擦った。
「……目、そんなに擦ると腫れちゃうよ」
目を擦る手が制止させられると共にら目の前が暗くなる。
いつの間にか私の両の掌は空気だけを掴んでいた。
