驚いているような、困っているような、複雑な表情を見せて何かを言おうと口を開く。
「っ、……っ、」
一度、二度、言葉にならない息だけを零して、絞り出すような音が乗せられる。
「……俺、好きだからそう言う事するっていうのが、分かんなくて。子供みたいだなって自分でも思うけど、ただ一緒に居れるだけで良かった」
「うん」
苦しそうな声に私もまた、胸を締め付けられるような感覚に襲われる。
痛い。
一度目をギュッと閉じて振り払う。
「それでも大事にしたいって、俺の事好きでいてほしいって思って、その子が望む様にして。でも俺自身、一緒に同じもの食べて、同じもの見てる時以上の何かを思う事なんかなかった」
「うん……」
唇を噛みしめてこぼれ出そうな言葉を押し込める。
こんな話をしているのに、少しだけその女の子が羨ましいと思ってしまった。
「だから恋人らしい事してみても、ただの形だけだったんだよ。それは間違いじゃない」
互いに噛み合わなかっただけで、彼は確かに彼女の事を想っていたのだ。
気持ちなんて伝わりもしないと突き放した根源はここにあったんだ。
漸く彼を見つける事が出来たのに、何故だか鼻先がツンとする。
また痛む。痛んでも尚、手を伸ばした。
「それでも、好きな気持ちを否定する必要ないよ。きっとそうする事が全部じゃないし、それが淵くんの好きって気持ちの形なんだよ……っ……?」
不意に頬に生温い感覚。ポタリと雫が溢れ落ちる。
視界が潤んで彼の姿をぼやけさせる。
「え、なん、何で瀬戸さん泣いて……」
大粒の涙が、戸惑う彼の服を濡らしていった。

