納得いかない気持ちになる。彼は此方を向く事はない。
「真似事ってそんなの……」
「真似事なんだよ。情けない話、普通の恋人がするような事をなぞってしただけにすぎないんだから」
投げやり気味に言ってのける彼は、本当に納得しているのだろうか。
納得していないからこそ、今、こんなに感情が複雑に絡みあっているのではないか。
「それをその子は見抜いたんだ。誰にでも優しくしていて、彼女だからって特別じゃなくて、特別にはしてくれないって、いっつも笑ってたあの子を俺は泣かせた」
「でもだからって、淵くんがその子を想う気持ちが嘘じゃないなら、好きに変わりないじゃない」
例え、その子が淵くんから想いを感じ取れなかったんだとしても、伝わらなかったんだとしても、彼に気持ちがなかった事にはならない筈だ。
だって彼は心に対していつだって真剣な事を私は知っている。
力の籠っていた手はいつしか力が無くなっていて、私が繋いでいるだけになっていた。
「……――瀬戸さんは優しいね」
「違うよ。優しくなんてないよ」
彼は何度も何度も私を優しい人だと称する。けれど本当に優しいのは淵くんだろう。
泣かせてしまった女の子の言葉に思い悩んで、雁字搦めになっても尚、決して責めるような言葉を選びとらない。
きっと、誰かを責めた方が楽で、言葉なんて振り払ってしまえば屈折せずに前へ進めるのに。
けれど言葉一つで彼の信じていたものがそうやって変わってしまうのなら、私の言葉だって届く筈だ。
「私の知らない女の子が言った言葉を信じない酷い人間だよ。目の前にいる淵くんを信じる、そんな偏ってる人間なんだよ」
「っ!」
背けられていた顔が、漸くこちらに向き直った。

