「っ~~!いっ、てぇ……っ!」
倒れる際に一人分の体重が加算されたのに近くなったため、床に頭をぶつけた衝撃は相当なものだっただろう。
悲鳴にも似た声で呻く。
彼が真後ろに倒れて、私がまるで彼を押し倒したかのような状態。
そんな状況なのに、何一つ気にする事が出来なかったのは少なからず頭に血が上っていた状態に近かったからだろう。
けれど、決して怒っているわけではない。
いくら平然としていられると言っても、この一線を無理矢理越えてしまうのは違う。越えさせてはいけないと思ったのだ。
悲しいような、やるせないような気持ちだった。
痛みから眉を寄せる彼を見下ろし
「な、に……」
「っ、確かに」
まるで彼の言葉を制するように声を被せる。
「――確かに、何てこともないようにそんな事されるのは嫌だと思う。女の子として」
「……うん」
言葉を受け入れるかのように頷きを返し、受け入れがたいかのように顔を背けた。
でも、そうじゃない。それは、本当に酷い事が出来る人の話だ。
「それでも、淵くんは淵くんなりにその子の事が好きだったんでしょ?そうやって悩むほどに」
「……好きだったよ。好きだから手を繋いだし、好きだからキスもしたし、好きだから……っ、でもそれは……それは只の恋人の真似事だって」
繋いで離す事を忘れた彼の手に力が籠った。言われたことを思いだして堪えるように。

