神様には成れない。



ジッと見つめる黒い目が近くて、近すぎて何も映していないかのように見えた。

揺らがない瞳とは対照的に私の目はきっと落ち着きなく揺れているだろう。


「瀬戸さん」


掠れる声で私の名を呼び、後頭部に回していた手を移動させる。

髪を梳くように触れ、耳に指先を這わせ、まるで遊ぶように。


「っ〜〜!」


私はされるがままになっていて、息を殺すしかなかった。

動けば、声を発せば、飲み込まれてしまうような危うさがそこにあったからだ。

まだ名前のない曖昧な関係は、きっと簡単に壊れてしまうものだった。今まで気づけなかったのは彼が安全圏を守っていたからなのだ。


漸く気付いた。

気付いてしまった。

気づかされてしまった。


彼の指先が唇に触れた。次いで微かに息を吸い込み僅かに指先に力が籠った。

そのことに気付いた瞬間、私は彼の右手首を掴んでいた。


「っえ、ちょっ!?」


至近距離で不規則な動きをしたために、互いの額が勢いよくぶつかりそうになるも、淵くんが身を避けるように後ろに退いた。

しかし、互いに互いの手を掴んでいるのだ。咄嗟に離す事も出来ずにバランスを崩す時も道連れだった。


「うわっ!?」


短く声が上がると共に、ゴンッと鈍い音が部屋に響いた。