同じ体制のまま容易に動けなくなってしまって、彼の声に耳を傾ける。
「最初は告白されたんだ。別のクラスの名前も知らない女の子。顔を真っ赤にしながら告白するくせに、それでも俺の名前を呼ぶ声が何となく心地よくて、俺を見て笑う顔が凄く可愛くて。そんな単純な理由だったけど付き合う事にしたんだ」
以前の事を知らない、今の彼の事しか知らない私からすれば、およそそれだけで受けはしなさそうにも思えた。
今の彼は臆病になってしまっているのか。
ひとつ酷い事を問う。
「それなら今だって簡単に付き合えばいいんじゃない?」
飽きる程繰り返しの質問内容で、答えのない事は知っていた。
それでも、沢山言い寄ってくれる人だっているのだから、その中でちゃんと好きだと思える人くらい居る筈だ。
一般的にはあまり褒められるような行動ではないけれど。
「……そうだね。でも、世間一般の恋人同士がする事を何てこともないように出来る男って嫌じゃない?女の子として」
「っ?!」
徐に自らの左手を私の右手に絡ませる。
そして、空いている右手を私の後頭部に回し引き寄せた。
「……!」
息が止まる。目を大きく見開いて固まってしまう。
「平気でこんな事出来る奴に気持ちなんてあると思う?」
鼻先が触れる。どちらかが動けば唇と唇が触れてしまいそうな距離。
そんな距離にいようとも彼は平然としていれるのだ。

