神様には成れない。




彼は俯きながらシャルロットをひと撫でした後、徐に立ち上がった。


「淵くん?」

「ちょっとだけ待ってて、コイツ部屋に戻してくるから」


私の横を通り過ぎる彼を見上げるとシャルロットの丸い瞳と目が合った。


「……」


何か聞いてはいけない事を聞いてしまったのだろうか。それでなくとも、お互い踏み込むほどの話をしない方だったので、気分を害してしまったのだろうか。

ぐるぐると頭の中で考えている間に彼はまたこの部屋に帰ってきた。


「淵くん……あの」


何を言えばよかったのか何を言えたのか。

わからないまま、先走ろうとして


「瀬戸さん」


制止された。

彼は先まで座って居た場所では無く、私の隣に座ってジッと此方を見つめる。

今度は彼の黒い瞳が揺らぐ。否、私が揺らいでるのだろうか。


「っ、」


コツリ、と躊躇いもなく額を額に寄せられる。


「ふち、く……?!」


突拍子もない行動に動揺せざるを得ない。

固まってしまう私とは裏腹に、彼は冷静なようで瞳を閉じている。

長い睫毛にキメの細かい肌が見える。

額に体温を感じる。彼の方が少し冷たい。

互いの息遣いが聞こえる。彼の方が深い呼吸だ。


「っ、」

「瀬戸さん俺はね……」


また名を呼ばれた。今度は私だけに聞こえるくらいの掠れる程の小さな音。


「――瀬戸さんの事、好きになりたい」


切実に願うような消え入りそうな声だった。