◻️

「アルフ!」

アルフの家は普段鍵を閉めない。
アルフの住むリーフの村はサリア城も近いわけか山賊などもおらず、泥棒や強盗の心配がないからだ。
心配なのは畑を荒らすイノシシだな、と昔アルフが言っていたっけ。

あれ、この匂い…

「ちょ、シエナ!?…重いんだけど」

気づくと自分の下敷きになっている幼なじみの姿があった。
あまりの恐怖心から飛びついて押し倒してしまったようだ。よいしょ、と起き上がる。

幼なじみであるアルフは寝るところだったようだ。
城を出たのが21時頃だから今は22時頃。働いている若者ならばこのくらいに寝て当然だ。

「聞いて!話があるの!」

「なんだよ藪から棒に…」

どうせ大した話じゃないんだろー、とアルフはあくびをした。
それにしても昔よく遊びに来た家となんら変わりない。匂いも、家具の場所も。

変わったのは…そう。

かつて大災害をもたらしたガノスを封印したひとりである父がいまだに帰ってこないこと。
噂ではガノスはまだ生きていて、弱っているだけだ、封印したと言われている旅人たちは見張りをしているんだ、と騒がれたりもした。
ガノスは人々が暮らす大陸からは遠く離れた孤島に封印したと聞かされていた。


「で、話ってなんだよ?」

アルフの言葉にハッとなり、シエナは事の全てをアルフに話した。

母が魔物と協力体制にあるであろうこと。
自分を捕らえようとしていたこと。
自分が何かのカギであるということ。

「要するに逃げてきたのか」

「だって今晩決行するって言ってたから、城は危ないと思って」

「俺んちに逃げたかもーなんて予想するだろうな」

アルフの言葉に唾を飲んだ。
そう言われると、サリア国を治めるサリア城は城と、このリーフの村しか存在しない小さな大陸にあった。

ほかの大陸に繋がるのはリーフの村にある地下街道を抜ける必要があった。

そして幼なじみのいるリーフの村。

逃げるとしたらここしかありえないのだ。

「どどど、どうしよう!」

「落ち着けよ。一応俺はギルドで勇者という職業をもらった身で、毎日魔物の討伐以来なんかをこなしてる。情報を集める為にも、逃げる為にも、この村は出た方がいい。俺がギルドとは別、姫からの依頼として護衛させてもらうよ」

なんて頼もしい言葉なんだ。
幼なじみがこんなにかっこよく見えたのは…えーと、しばらくぶりだった。

そうとなれば急ぐぞ、とアルフはシエナの手を引き外へ出た。


◻️


「こんなもんだろ!」

ここは武具屋というらしい。
リーフの村だけでなく、旅人が立ち寄る街や村には存在するようだ。

アルフは軽めの鎧と、自分が母の血を継いで魔法が使えることから魔術書やステッキを購入してくれた。

これからこの装備で魔物と戦っていく。
シエナ、いや、一国の姫である彼女が体験することなど夢にも思わなかったことだ。

長かった桃色の髪も邪魔になるので高いところで結ってみた。似合うかは関係ない。

「行くぞ」

「あっ、うん」