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いつもと変わらない日だった。
シェフの作ったモーニングに、ランチ。おやつの時間はマカロンだった。

何一つ変わらない、そんな日常に退屈さを、このサリア国の王女であるシエナは感じていた。

「ふぁ〜…。今日も退屈だったな。アルフ元気にしてるかな〜最近会ってないもんな…ってなに、私寂しいの?そんなわけ!」

城の廊下を歩きながら独り言をつぶやく。

向かっているのは母の部屋。

シエナの日課だった。
就寝前の挨拶だ。

母の部屋に近づくと香ってくるアロマの香りが、今日はやけに少なくて違和感があったが、そんなことは気にすることではなかった。

母の部屋へ入ると、なんだか凍りつくような寒気を感じた。
母は凄腕の魔術師だ。
暑くて氷の魔法でも使ったのだろうとたいして気にもとめず、シエナは母の寝室の扉の前に立った。

「手はずは整ったの?」

聞こえてくる母の声。

ひとりのはずなのに、誰と会話をしているのか。
シエナは気になったが、何か妙で、扉の前で立ち尽くすしかなかった。

「いい?シエナの存在は私たちの夢へのカギなのよ!絶対逃がしてはならない…で、いつ決行するのよ?」

え?

普段のおだやかな母の声とは違う。
まるで何かを治める長のような迫力の声だ。

ではなく、シエナは会話の内容に唖然とした。

自分の存在がカギ?
逃してはならない?どういうことだろうか。
ひょっとしたら、私が今考えていること以上に、自分の身に危険が及ぼうとしているのではないか。

「はい、今夜決行です」

今夜!?

シエナは、恐怖心と好奇心が混雑し、そっと扉を開けてみると、そこには緑色のゴブリンと話す母の姿が見えた。

どうして…お母様が魔物と…会話を…

「あの子は毎晩私のところへ来ておやすみなさいと挨拶に来るわ。そこを狙いなさい!」

シエナは走り出した。

このままでは、自分はなぜだかわからないけれど、魔物に連行されてしまう。
会話の内容から、生かして捕らえることが目的のようだった。でも、なぜ。
魔物と会話をしていた時点で母は人類の敵だ。それは目を背けたくてもしてはいけないことだった。

シエナは国王である父親に助けを求めるべきか迷った。

父も母の仲間かもしれない。
国王の権力を振りかざし、母と何か企んでいるかもしれない。

走りながらいろいろな思考をめぐらせる。

たどり着いた結論は、かつて大災害をもたらしたガノスという魔物を封印した旅人のひとりであるダリウスの息子、アルフの元へと行くことだった。

敵を封印した人の息子が敵であるわけがない、と思ったからだ。そしてなによりアルフはシエナの幼なじみである。信頼にたる理由はそれだけで今は十分だ。

城を抜けた。

「シエナ様!?」

門番に止められる。
振り切れ!!

「シエナ様ー!!!!」

アルフの家は城を出て南へ行くとある村だ。
今晩中にたどり着く。

心の奥が叫んでいた。

生きろ、と。